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憧れの人(2011.12.08 THU.)

「今朝焼きたてのカステラです。どうぞ召し上がって!」
嬉しいお土産をいただきました。

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小さな洋菓子やさんのホームメイド。
原材料は卵、砂糖、小麦粉、水飴の4種類のみ。


お話では、前の夜にお店から「明朝カステラを焼きますが、ご入り用ですか?」の電話があって予約をされていたそうです。
焼きたてホカホカのまだ温かいカステラです。

「この店のカステラが義母の好物でした。」‥ということは、
「先生が小さい頃によく口にされたおやつなのでは?」
「よく食べたそうです。」

「わあ、うれしい!」
「先生も召し上がってらしたんですネ!」
不覚にも大喜びしてしまった私をごらんになって、おっとりと優しい
<先生の奥様>は、大らかに笑っておられます。

<先生>‥‥池見元宏先生。 

秋田の酒造りの歴史の中で、吟醸酒の先生、いえ、神様といったらこの方を思い浮かべます。
吟醸酒がまだ清酒市場で認知されていない時代、醸造試験場の場長として<吟醸造り>に心血を注がれ、何処にでも出かけられ、仕込み中の寒い酒蔵に泊まり込みで、指導された方だそうです。

先生は、造りの現場に留まらず、飲み手の現場にもよく足を運ばれ、吟醸酒を熱く語られました。

1982年に『日本酒を楽しむ会』を夫たちが立ち上げた時には、快く発起人に名を連ねてくださり、54歳の働き盛りで逝去された1984年までの僅か2年間でしたが、美味しい日本酒普及のために、私たちをご指導ご尽力くださいました。

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3周忌を前に刊行された冊子。
先生と交流のあった60人以上の方達が、想い出を寄せておられます。
500ページを越す冊子の約2/3は、先生が研究された酒造りに関する論文です。

 
ある夜、会が終了し二次会のお店スナックから
「今からいらっしゃい!」
と、夫を通じてお電話をいただきました。
私は留守番がほとんどで、先生に直接お会いする機会は極僅かでしたので、夢のようなお誘いです。
たぶん、裏方の私にも配慮され、労ってくださろうということだったと思います。

夜10時過ぎ店を閉め、少しでもお話を聞きたくて大急ぎで伺うと、ゆったり寛いだ先生を囲んで、先生を慕う会のメンバーの顔が揃い<吟醸酒談議>で盛り上がっています。
エレクトーンの生演奏も素敵な雰囲気です。
その頃私は、ただただ酔うために呑む<酒飲み>しか、見たことがありませんでしたので、
「こんな大人の世界があるのか?」と、随分驚いたものです。

私は雲の上の存在である、憧れの先生のお話にじっと耳を傾けて、至福の時を過ごしました。
吟醸酒にかける先生の情熱を熱く感じた夜でした。

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「マルタの家のキリスト」(ミュンヘン、アルテ・ピナコテーク蔵)
大勢の客の接待をする姉マルタ。姉の手伝いも忘れて、キリストの説教にうっとり聞き入る妹マリア。
マリアの気持ちがよ~く解ります。
姉マルタは、キリストに「手伝いをするように言ってください」と訴えますが‥‥キリストは「マリアが正しい」と‥‥。

 
お洒落で、優しくて、知的でダンディーな先生でした。
韓流スターもわるくないけど、私にとって、永遠の憧れの人は27年前のあの宵の『池見元宏先生』でしょうか。

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カステラは飾らない、てらいの無い、手造りの味で、私の好きな味でした。


カステラを食しながら、しみじみと<在りし日の先生>を偲びました。
奥様、この上ない素敵なお土産を、ありがとうございました。

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ジャコバサボテンが今満開です。
by hanatabi-haruko | 2011-12-08 20:52 |